ゴールデンウィークの有田陶器市
福岡から佐賀県の有田までは車で2時間まではかからない。ある程度の土地勘はあるし、「9時前に家を出れば余裕でお昼前には着けるはずよ」とそんな話をしながらふたり車で出発した。ちょこちょこと家の周りの買い物には出かけることはあるが片道2時間近いドライブはちょっと久しぶりだ。ましてや嫁さんは自分が好きな食器が安く買えるという期待で目が輝いている。やたらと助手席から話しかけてくる。「コーヒーは飲まないわ、トイレ行きたくなるし」聞いてもいないのにそんな事を言っている。嬉しそうだ。
福岡から佐賀までは目的地にもよるが高速を使っても、一般道でもさほどストレスなく行くことができる。有田までは高速を使わずに北側のバイパスを使って行く方が便利で安く行くことができる。昔を懐かしむように僕が大好きだった「イーグルス」を聴きながらドライブする。僕もなんとなく楽しくなってくる。バイパスは唐津市を抜けて伊万里市を過ぎてあっと言う間に目的地の「有田」についた。幸いにも途中、渋滞もなく心配したトイレ休憩もすることなく無事に到着することができた。
会場のそばの駐車場を探り当てて車を停めた。
「お疲れちゃん」関西の女性はたまに言葉尻に「ちゃん」をつけて話す。僕の嫁さんが「ちゃん」を付けて話すときは確実に機嫌がいい時だ。
「はいよ。結構早く着いたなぁ」軽く答える。家の軒先に木製の台をひろげた上にたくさんの食器が色とりどりに並んでいる。少しして気づくといつのまにか人が増えている。一気に混みだした感じだ。そう思いながら歩いていく。嫁さんは道路の両脇をキョロキョロしながらとても楽しそうだ。そして立ち止まって気に入ったものを手にとって眺めて裏にある値段を確認しては、僕に「これは安いわ」「えぇ〜こんなするん」「あぁやっぱりな、いいなと思ったやつはやっぱりいい値段するな」と独り言なのか僕に話しかけているのか判断がつかない。そうしてぼちぼち歩いているうちに嫁さんがお茶碗を気に入ったらしかった。
「あぁこれいいわ、気に入ったわ。ねぇよくない?」確実に質問してきている。
「うん、いいんちゃう」と返事しても耳には届いていないようだ。
「すみません、これって同じやつ、2つありますぅ?」
「あ、はい、ありますよ」そう言って店番をしていた若手の陶芸家っぽいお兄ちゃんがたくさん並べてある中からもうひとつを探して嫁さんに渡してくれた。
「なぁよくない?これ」嫁さんはすっかり気に入った様子だ。
「まけてくれるんかなぁ?」嫁さんが小さな声で聞いてきた。ここは佐賀県だ。ホームではなくアウェイにいることは自覚しているようだ。
「聞いてみたら?」
「せやな」そう言うと
「おにいちゃん、これぇちょっとまけてくれる?」
「関西からですか?」すぐにバレてしまったようだ。
「はい、いいですよぉ〜」おにいちゃんが笑いながら答えると、そこからが関西人の本領発揮だ。スイッチが入ったようだ。
「もうちょっといける?」
「いやぁもともとお安くしているんでもう限界ですから」そんなやりとりが数分続いた時だった。嫁さんが
「ええやろ、うちらにおまけした分、次のお客さんからとったらええやん、なっ?」
お兄ちゃんが一瞬固まった。横で楽しく相槌をいれながら見ていた僕もその一言には流石に一瞬引いてしまった。結局、根負けしたお兄ちゃんから更にチョピリおまけしてもらって二人でその店を後にしたのだった。