おはようとおやすみ

毎日欠かさずに、それは愛の証さっ!

僕の職種は営業だ。新規顧客の開拓が使命だ。ほぼ毎月のように出張が入る。複数のお客さんとのアポイントを調整して日程を決めるのだけれど、最低でも月に1回、1週間から10程度家をあけることになる。嫁さんはいつも僕が家を出る時は飲み過ぎてハメ外すなよと釘をさしてくる。何度も行方不明になった過去があるからだ。行方不明というのは警察のお世話になったとかどこかに行ってしまったと言う意味ではなくて、単にホテルに戻って何も連絡することなく寝入ってしまうだけのことではあるのだけれど・・・

僕は出張に出ると必ず、朝に「おはよう」と、夜寝る前に「おやすみ」とラインを嫁さんに送る。昼間でも仕事の合間に今、どこどこに着いたよとラインする。ある程度の出張の行程を、いつからこのホテルに泊まるよとかどこどこまで行くよといった具合に事前に嫁さんに教えてから家をでる。

そうなったのは、結婚する前に少し遠距離で付き合っていたことがあって、その時にどこで何をしているのか連絡してほしいと嫁さんにお願いされたからだ。その時から結婚して今もずっと続けているのだ。特に僕を縛り付けているわけじゃない。

付き合い始めた頃に嫁さんに言われたことがある。「ぼんやりしている時にふと誰かのことを考えてしまうことがあるでしょう。今、あの人、何しているんだろう?って考えたりするでしょう。それはその人のことが好きな証なんだって」「へぇ〜そうなの?」「だからどこで何をしているのか知りたいの」そう言われてからずっとどこで何をしているかをケンカをしていない時にはできる限り連絡するようにしているだけだ。

出張で飲み歩いていることは当然知っている。それが深夜になっても「ホテルに戻ったよ」の連絡がないと飲んで酔っ払っているんだろうなと分かってはいるものの心配になるらしい。不安が不安を増幅させて気になるらしい。お客さんと飲みに行っていることを知っているから滅多に連絡はしてこない。家でひとりでヤキモキしながら「ただいま」のラインを待っている嫁さんのことをよそに呑んだくれの僕はネクタイを外しただけのシャツのままホテルのベッドで大いびきをかいているのだ。これが深夜の行方不明の真相だ。

実は今もとある地方のホテルでこれを書いている。これを書く前に「ホテルにいるよ」とラインしておいた。そしてこれから「おやすみ」とラインするつもりだ。