はっとした!

改めて気付かされたこと

その日、僕は北国へ出張していた。朝は少し遅めにおきてゆっくりと朝食をとっているときもその日の出張先での面談内容などを予習していた。当然ながら嫁さんが作ってくれた朝食にもさほど気遣いをすることもなく午後に会うお客さんからの宿題の回答などをあれこれ想定していた。
「・・・なんか言いなさいよ」つっけんどんに嫁さんが言う。
「あっごめんごめん、ちょっと考え事してたわ」
「作り甲斐ないわなぁ〜」ため息と一緒に嫁さんが言う。
「ごめん、ごめん、ちょっとややこしい話があってさぁ」といいながら、こっちは部下の仕事の揉め事を納めに行くんだよ。邪魔すんなよくらいに思いながら顔には出さずに半笑いで朝食を進め終えた。念の為と思ってリビングでパソコンを開いて画面を覗き込む僕を横目で見ながら嫁さんはスマホでインスタのフォローをしているらしかった。

小一時間も集中してしまった。
「んじゃ、支度するわ」とパソコンを閉じて立ち上がっても嫁さんは目線をスマホからそらすことはなかった。「んだよッ、くっそッ」と少しだけ思いながら身支度をするためにリビングをでながら少しだけ後悔した。せっかくの出張で朝をゆっくりできる時間だったのに嫁さんとの会話もろくすっぽ交わさなかったなぁ〜そんな後悔の念を抱きつつ小ぶりのスーツケースを開いて下着やハンカチなどを詰めることにした。ふと手を止めて
「まずかったなぁ」小さく呟いた。スーツケースを引きながらリビングに戻ると嫁さんはまだスマホを覗き込んでいた。僕に気づいて暫くしてから立ち上がって
「あれ、ネクタイは?」
「今日は先方に移動して夕方からそのまま会食だからさ、ネクタイはいいわ」
「そうなんだ、もう出る?」
「どうしようかな、ちょっと早いな」
「コーヒーでも飲んでく?」
「飲むわ」さっきのつっけんどんな態度を反省する気持ちも手伝って明るく返してみた。一瞬だけど嫁さんが変な顔をしたのが分かった。
「やべ、何か悟られたかな?」
コーヒーを飲みながらたわいもなくスマホでメールをチェックしつつボソボソと会話をつなぎながら出発の時間を待った。
「んで、どう?」嫁さんからの質問に、やべ、聞いてなかったわと思いつつ
「どうやろな」とスッとボケて曖昧に答えてみる。そこは嫁さんも想定内なんだろう、こいつ人の話、聞いてなかったな」と思いつつも出発前という状況を察してか問い詰めてくることは無かった。それともそこまで意識していなかったのかを再確認する訳には行かない。
「そろそろ行くわ」
「うん」

駅までの道をスーツケースを引きながら考えた。結婚して依頼、いつ頃からだろうか?嫁さんの会話をぞんざいに扱うようになったのは?きっと内心、嫁さんはきっと同じようなことを繰り返されてきているに違いなかったはずだ。なぜならその張本人の僕がそう思っているのだら・・・それでも何故に怒りもせずに見切りもせずに僕のことも思いやって「コーヒー飲む?」と声をかけてくれたんだろう?そんなことを考えながら歩いていくうちに駅についた。改札までエスカレータを上がっていくうちにそんな自問自答も会社からの電話で一蹴されてしまった。

車窓の風景が途中の長いトンネルを出て一変した。目線の先に広がる田畑らしい平らな地面一面が真っ白な雪で覆われていた。畦道のところどころにたつ木々の細い枝や葉先までにも雪は積もっている。
「うわ、凄ッ」静かな車内で思わず言葉が口をついて出てしまった。乗客は10人にも満たない静かな車内だ。一番近くに座っている老夫婦らしきカップルまでは4席ほど前に離れている。「きっと聞こえてないわ」目的地の駅についた。事前にスマホで確認しておいたホテルの場所は駅からさほど離れていない。少し迷って歩いていくことにした。夕方から大切なお客さんとの会食だ。明日のややこしい問題の打ち合わせの事前打ち合わせとして懇意にさせてもらっている先方の部長さんに内々で相談してこの会食を自分で手配した。普通であれば部下にお願いして軽く済ませてもいい会食とは、明日の問題をうまく納めるためのそれとは意味が違う。懇意にさせてもらっているとはいえ今日ばかりは相手の出方がまったく想像できない。

チェックインしたホテルで出かける前に送ったメールの返信内容に軽く目を通しているとラインが来た。嫁さんからだった。ウォーターサーバーの水を注文してくれとの内容だった。すぐに「了解」と返事を返した。その時点で「なんでこれから出かけるって時にラインしてくるんだよ、んと、タイミング悪いな」と思いながらも笑顔マークも文末につけて返した。するとすぐに「あの件だけど・・・」と別の質問が来た。ラインを開封する前にホーム画面の通知で内容をみて「はぁ???」なんでそれを今聞いてくるんだよ?と少しイラついた。出かけようとしているこのタイミングでのライン質問は以前にもよくあることだった。ましてや今日は少しピリピリしている和やかな会食の前とは大きく違う状況だ。ついつっけんどんに顔文字もつけずに「OK」とだけ返してホテルの部屋を出た。エレベータで一階まで降りて扉が開くと同時に電波がメッセージを拾う音がした。ホーム画面に「飲みすぎるなよ、帰ってきてちゃんと調べて返事返せ!」と怒りの赤い顔の絵文字が見えた。一応、既読にだけしてタクシーで会食の席へと向かった。途中ずっと心の奥底に赤い怒りの絵文字が残っていた。

会食は無事に終わった。明日の本番の打ち合わせに向けた下準備も段取りできた。よかた。すっかりいい気分になってホテルに戻って出かける前のスマホの約束を思い出した。「あっそうだ、調べなきゃ」面倒臭いなぁとも思いながらこころの底から僕に気づかせようとする気配を感じた。その気配というか思いが心の中で段々と大きくなっていくのが自分で分かった『僕は嫁さんのことをいつの頃からぞんざいに扱ったきたのではなかろうか?』『僕は嫁さんにとんでもなく冷たくしているんじゃないだろうか?』幽霊でもみたような背筋が冷たくなるような感覚を覚えた。『僕はもしかしたら嫁さんに自分が集中していることに託けてとんでもなく冷たく接してきてしまったんでは無いだろうか?それはいつからだろうか?』『つい最近か?それともずっとずっと前からか?』そんなことさえも思い出せない僕自身にハッとした。にもかからわずそんな僕を見守って「コーヒー飲む?」と気遣ってくれる嫁さんに僕は心の中でひたすら改めて感謝するしなかなかった。もっと嫁さんにちゃんと優しくしよう。態度に出して優しくしよう。ラインもきちんと受け止めてちゃんと読み込んで愛情を込める気持ちで返信しよう。そこから自分を変えて行こう。 大好きな僕の嫁さん、そう決意した 🙂

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