洗面台に残った汚れでいつもキレている (><)
「こんなんありえへんわぁ〜、信じられへんわぁ〜」片付けられない若い女性の一人暮らしの部屋を訪ねるテレビ番組を観ながら嫁さんがリビングのテーブルでスマホを片手に話しかけてくる。
「こりゃひどいな」僕も思わず返事を返さざるをえないほどテレビに映し出される20代前半だろうか?その女性の部屋の散らかり様は凄まじかった。ギャラが貰えるんだろうが、当然、個人が特定できるような部分にはボカシが入ってはいるがプライベートな部屋の中を、しかも足の踏み場がない散らかり放題の有り様を公共放送のテレビの電波で放映されることになんの躊躇もなくあっけらかんとしているその神経にまず驚かされる。どんなに可愛い服や髪をしていてもきっと彼氏がこの部屋にきたら100年の恋もという古い人間の諺なんかは通用しないんだろうなとも思ったりするのだ。部屋を訪れた今時の彼氏もきっと馴染んでしまうのかもしれない。
昭和生まれの僕の嫁さんは極端というほどではないが掃除と片付けをよくやってくれる。綺麗好きではある。そして一旦、掃除を始めると自分がなっとくするまでやり続けるのだ。日々のそれはさほどでもないのだけれど、日にちを選んでその日に片付けをやると決心したときのそれは当然ながら僕も犠牲にならざるを得ない。ひとりで出かけるなどとお伺いを立てる気配など見せようものなら3年ほど前から溜まったクレームやなんやかんやが吹き出してくる恐れがあるので悟られないように素直に従うしか他にないのだ。
嫁さんはこつこつと片付けと掃除を続ける。洗面台のしたの引き出しに溜め込んだホテルに泊まった時に余計にもらってきたアメニティ類や浴槽の端に綺麗に並べられているシャンプーやリンスの容器の中身まですべて細かくチェックしてスクラップ&ビルドを進めていく。僕は『そんなんとっていても使わんやろ』と思っても決して声に出していうことはない。嫁さんの頭の中にはこれは将来何かの時に使えるという閃きの基準があるようだ。その閃きの基準はどのような内容なのかは僕にはわからない。でもしかし確か何かこんな感じの容器があったらなという時にはその閃きの基準で取り置いていた何かを上手い具合に活用して得意顔(ドヤ顔)になったりするのである。
僕が一番恐れているのは何かというと汚したことに僕自身が気づかずにそれを嫁さんに発見されることだ。僕だって結婚して依頼、嫁さんの綺麗好きと片付け好きに長年付き合ってきたおかげでそれなりに綺麗好きにはなっている。とは言え、所詮は男レベルの”好き”だ。度合いが嫁さんの”好き”とは大きく異なる。それでも朝、洗面台で歯磨きをして洗顔したあとは周りに飛び散った水滴をこっそり顔を拭くためのタオルで綺麗に拭いたりしている。これは違反だ。見つかったら大変なことになる所業だ。洗面台を拭きあげるタオルはきちんと別に用意されているのだがそこは男の性で面倒なので顔を拭いたタオルでちょこちょこっと済ませるのだ。それがたまに正面にある鏡までには気が及ばない時がある。飛び散った小さな水滴が時間とともに乾いて跡になるのだ。その汚れた鏡の写真が出勤して机に向かった頃にラインで送られてくるのだ。
「何なん?これ!」お怒りモードだ。
「何回言ったら分かるよ!ホンマにボケ」
「しゅびましぇん」
「しゅびましぇん、ちゃうやろッ!人がどんだけ時間使って毎日掃除してるか知っとんのんか」ラインの絵文字が怒っている。ほとぼりが冷めるまで待つしかない。でも、本当に綺麗に掃除してくれているからこそなのだと僕は分かっているからそんなきつい言葉も投げつけたくなるんだろうと理解している。冒頭書いた散らかり放題の部屋を公共放送でなんの躊躇いもなく紹介できる女性の彼氏にはどんなに頑張っても僕はなれないだろと思うのだ。