ご臨終です!
「ちょっと、来てぇーッ」リビングでくつろいでいると夕飯の支度をしている嫁さんがキッチンから金切声で叫んだ。
「はよッーはよーッ」
「何してんのよ、早くーッ」パニックに陥ってヒステリックな金切声のトーンが最高潮に高まっている。でも、僕は慌てない。
「きっとあれだ」そう確信してキッチに行くと形相を変えて固まっている嫁さんが指差す先に体長5ミリ程度の小さな物体が少し動いては静止する行動を見せていた。
『やっぱりだ』
「はよぉーつぶしてよッ」
「何してんのよ、はよぉー」ティッシュを手に息を止めて静かに静かに近づいく。動きを悟られるとこっちの負けだ。取り逃した後の嫁さんの僕に対する罵声は何度も過去に経験している。ましてや今夜の夕食がほぼほぼ出来上がっているこの状況でそれは避けたい。
「エイッ」撃墜したはずだ。
「とった?」心配そうに嫁さんが聞いてくる。ティッシュの中に可哀相にまるまった5ミリ程の黒い物体が見えた。
「こいつ今朝みたやつと違うわ」嫁さんは僕が出勤したあとに同じようにキッチンで敵に遭遇していたらしい。
「朝みたのはもっと大きかったもん」そう言って見せる嫁さんの親指と人差し指の間はやはり同じ5ミリ程度の幅が空いていた。
「やっぱりこいつ朝みかけたやつと違うわ」
「もぉ嫌やわぁ〜一匹見かけると50匹は居るっていうで〜最悪やわ」
『取り逃さなくてよかった』僕は安堵した。
それにしてもこの小さな黒いやつに限らず、蚊よりも小さい飛ぶ虫たちにどうしてこうも過激な反応をしめすのだろう?見つけると一瞬でスイッチが入る。慣れっこの僕は慌てない。とにかく確実に仕留めることを考える。僕のうちの家具の隙間や角にはかなり多くのこれらの虫取りの仕掛けが置いてある。でもその周辺で死骸は見たことがない。1匹見つけたら50匹いるという説は本当なのだろうか?