嫁さんの笑顔が嬉しい
ガガガガガァ~と変な音がしたほうを見やるとおフロアから上がって髪を乾かしていた嫁さんの驚いた眼と合った。僕はリビングでiPadを開きながらワインを飲んでいた。
「どうしたん?」きくと、少し不機嫌に声で
「なんか中で壊れた破片がカラカラいってて、それがモーターに当たったみたいやわ、ほんま怖いわぁ」
「えぇ~そうなん?大丈夫?」
「うん、まぁ~たまになんねんなぁ~これ」
今使っている古いドライヤー、前に床に落としたはずみで内部の部品か何かが欠けたらしく、そしてその欠けた破片が依然としてドライヤーの本体の中に残ってて使っているとたまにその破片が内部のモーターに絡んでガガガガァと異音を発するのだという。破損した原因が自分の不注意ということを気にしているのかそれほど強く不愉快な顔をみせてはいない。
「新しいの買えばぁ」そう言うと
「うぅん」なにか後ろめたそうな返事をして鏡のほうを向くと勢いよく発出された熱風をボォーと濡れた髪に流し始めた。そんな会話をしたのが2カ月くらい前のことだった。
ポロロン、会社の机の端においたスマホが鳴った。画面の上部に一瞬みえた通知で嫁さんからだと分かった。
「何だろう?」パソコンのキーボードから手を放してスマホを手にしてラインを開くとデパートのスプリングセールのチラシの拡大写真だった。
「はぁ?何だろう」写真に写ったチラシには赤〇の印ある。Dysonのドライヤーだ。ピンときた。と、すぐにメッセージを受信した。
「今〇〇〇に来てるねん」
「新しいの出てるねん」
「でも高いねん」
「前のはちょっと割引きされて安ぅなってるわ!」
「どうしよう?」いつも言いたいことがあると短い言葉で連射してくる。新しいモデルが欲しいのは鼻からわかっているさ。わざと焦らして
「いくらなん」とだけ短く返事する。こういう時はさも仕事をしている風に装うのだ。
「前のやつは2割引きされてるわ」
「新しいのはけっこうするわ」要するに最新モデルは高いなぁという意味だ。でもほしい気持ちだラインからにじみ出ている。不思議なものだ。このデジタルの無機質な文字でもちゃんと人の感情が読み取れる。
「新しのにしたら?」
「ちょっと店員に聞いてみるわ」そう返事がきてしばし音信不通・・・小一時間してからだろうか
「買いましたぁ :)」笑顔マークが付いた報告だ。
「なぁッ 前にやつより音ちいさなったやろ」リビングにいる僕のほうを見返りながら両腕はクレーン車のように肘をまげながらも軽やかに動いている。
「なんかすぐ乾くし、髪がしっとりすんねん、これ」 よくしゃべるクレーン車だ。
「ふぅーん そうなんだ’」
「ほんま全然ちゃうで」
「よかったやん」
「うん」 嫁さんの笑顔が嬉しい。