桜エビと天かす、ビールも忘れずにね!
「ホットプレート出してくれる?」キッチンの奥で材料を準備している嫁さんがタイミングを見計らって声をかけてきた。
「はいよぉ」僕は思いっきり気を利かせてリビングのテーブルいっぱいに新聞紙を広げてホットプレートを準備する。と同時にリビングにつながっている寝室やクローゼットのドアが閉まっていることを再確認して窓を全開にした。
「スイッチ入れといてもいいかな?」キッチンを覗き込みながら聞くと
「もうちょっと待ってて」言われたとおりにホットプレートのスイッチをオフにしたまま嫁さんを待つ。
関西は粉もん文化だ。たこ焼きとお好み焼き、それから焼きそばはその家々オリジナルの味があるんだと結婚する前に聞かされたことがる。今僕の家にあるたこ焼き器は3代目だ。初代のそれは分厚い鉄板に丸く半分だけ凹んだ穴が12個あいててコンロの上に乗せて使うタイプで1番の基本型とのことだった。2代目は使い勝手を見込んで電気のタイプにしたのだが嫁さんの「やっぱ直火だな」の一言でガスボンベと一体型になっている24個焼きの上級モデルを今は使っている。なかなかの優れものでとても気に入っている。
嫁さんに言わせるとお好み焼きと焼きそばはセットなのだそうだ。最初にお好み焼きを家族みんなでテーブルに置いたホットプレートでわいわい言いながら食べた後に残った具材で焼きそばで締めるのだそうだ。「はぁ〜?基本やでッ」だそうだ。
「子供のころお父ちゃんが仕切ってよく焼いてくれたなぁ」3姉妹の嫁さんにはお父ちゃんがよくオマケしてくれたと懐かしそうに話してくれのを覚えている。
「おっけーッ、スイッチいれていいでぇ」
「はいよ」薄くオイルをひいてホットプレートに熱が行き渡るのを待つ。嫁さんに言わせるとお好み焼きと焼きそばのセットはディナーなのだそうだ。昼間のランチにはお好み焼きは付かず焼きそばのみなのだそうだ。大きめのお盆に乗り切れないほどの食材と調味料を重ねてキッチンから嫁さんが出てきた。ここからは余計なサポートは一切不要だ。子供の頃にお父ちゃんから教えてもらったのか?それとも見て盗んだ味付けを嫁さん自身でアレンジしたのか定かではないが、僕が口出しすると口悪く
「黙ってみとれ」と言われるのがオチだ。冷蔵庫から冷えたビールを持ち出してきて出来上がりを待つことにする。
豚肉を炒めてもやしにキャベツ、タイミングを見計らって桜エビや魚粉それに白コショウと続く最後の決めはとんかつソースとウースターソースの配合らしい。最後に青のりも必須だ。ホットプレートの表面を傷つけない自慢のシリコンのヘラを両手にもって黙々と手早く麺を返していく。
「いいなぁビール飲みながら見てるだけで」と言いながら笑っている。
「オッケー」嫁さんが自慢のシリコンのヘラで僕の前に置いてある大きめのお皿に盛り付けてくれた。そして自分のお皿にも盛り付けてお昼の焼きそばの完成だ。
「よっしゃ〜」エプロンを脱いで嫁さんが椅子に座る。
「頂きまぁ〜す」二人で声を揃えて感謝する。
「ほふ、ほふ、ふぅまひなぁ〜」
「うん、まぁおっけやな」嫁さんは自分が仕上げた味に納得して頷いた。僕は焼きそばを一口二口頬張るとビールを流し込む。程よく濃いソースの味を切れた炭酸が喉の中で追いかけていく。
「うっまぁ〜」生き返る。そして焼きそばの麺の影から覗いていた白いキャベツの芯の切れ端を箸でつまんで横の嫁さんのお皿にちょこんと置いた。
「んもぉ〜これくらい食えよ」そう言いながら嫁さんは僕が置いたキャベツに芯を自分の口に放り込んで笑った。僕は焼きそばに入っている異様にでかくカットされたキャベツの芯が苦手だ。