あれは俺だよ。

タオルハンガーの攻防

夕食も終わってリビングでくつろいでいると
「んもぉ~腹立つわぁ」と言いながら嫁さんが入ってきた。
「どうしたん?」聞くと
「洗面台のよこにあるタオルハンガーがまた落ちてんやんかぁ」
「そうなんや」
「吸盤が弱いんかなぁ~最近よく落ちるねん」
「気圧のせいかもな?」
「気圧ッ?そんなことあるぅ?」
「吸盤だからもしかしたら関係あるかなと思って」と話を濁そうとしたのだけれど
「やっぱ100均だからかなぁ」と、かなり悔しそうにしている。
「あれかって来たの去年だったよねぁ」と僕が言うと、一瞬嫁さんが怪訝な顔をして僕をみた。
「あれ買って来たのうちやで」今度は僕が固まった。
「おれやで」
「ちゃがうちがう、うちやって!覚えてるもん」
「俺だって、俺が会社の帰りにラインで頼まれて駅のSeriaで買ってきたやん」
「違うって、うちやって」僕は絶対的な自信があった。あれをかって来たのは僕だ。
今回は内心、嫁さんをからかうのもいいかなと思いつつ引き下がらないことにして続けた。
「違う、ちがう、俺だって。はっきり覚えてるもん」それから暫らく俺だ、うちやってと敵も引き下がらない。最後に
「あのハンガーは横幅をスライドさせて調整できるようになってるねん。そんな気の利いたもんあんたが買うわけないやん」
そう言っておくの寝室へんと消えていった。
『気の利いたもん』を僕が買うはずがないという何の根拠もない理由づけにちょっと可笑しくなったのでした。
そして心のなかで呟いた。あれを買って来たのは俺だよ。って、つい昨夜の出来事でした。

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