だ・か・ら・さぁ~結論から先に言ってくれよ

とは、言えないよなぁ

「ただいまぁ」
「おかえりぃ」
何気ないいつもの帰宅時の掛け合いだ。こんな短い言葉で嫁さんの機嫌が見えてくる。そもそも家に帰宅して玄関を開けて最初に発する言葉を何か心の中で構えて発することはないだろう。接待と偽りを装っての深夜近くになってしまった時の帰宅でもない限り、ましてやスーツの後ろ襟あたりに甘い移り香が危ぶまれるとき以外はさほど警戒して帰宅の合図を発することはないはずだ。
「ただいま」
リビングに入って嫁さんの存在をみて小さく言うと「お帰りちゃん」と返ってきた。関西の女性はある一定の年齢に達すると「飴ちゃん」に始まって何にでも「ちゃん」をつけてしまう傾向にあるようだ。それは固有名詞に限らず時として動詞にも付加するようだ。総じて言えるのは「ちゃん」が付くときは機嫌はいい。
キッチンから漂う焼き魚の香りを背に部屋で着替えを済ませてリビングにもどると小ぶりのカマが配膳されていた。
「おおッカマかぁ」
「いつもよりちっさいねん」金額とモノのバランスが悪いと必ず不平をいうのは関西女性の独特の文化なのか?関東では小さくなったことは冷静に判断して説明はするが単価が高いことに敢えてクレーム的には表現はしない。以前よりも高くなったけど仕方ないわという納得の感情だろう。ところが関西では「なんでなん?」「前は〇〇円やったのに」とはっきりしている。
配膳のためにキッチンとリビングを往復しながら嫁の話が始まった。
「今日トモミさんからライン来てなぁ」そう言うとキッチンに戻っていった。
「友達が来んねんて」
『ん?』鼻からなんの話しをしたいのかが見えてこない。仕方なく聞いているという意思表示のための返事をする
「ふぅ~ん」
「あんたも一緒に会ったことある人やで」
「えっそうなんや、誰?」
「コマツさん、覚えてる?」答えを聞く前にまたキッチンへ戻ってしまった。そしてお椀をもって帰ってきて続ける。
「コマツさん今、神戸におるねんて」
「へぇそうなの?」
「そんで自分でやってるお店が忙しくて大変なんやって」
「へぇ~いいなぁ~繁盛してるんだぁ」
「そんでトモミさんが一回行ってみたんやって店に」
「ほぉ」
「めっちゃいい店やって、けっこう値段もしてて、店の雰囲気もいい感じやって、うちらも一回行ってみなアカンわ」
「うん」
「そんでトモミさんからライン来てな」
「うん」
「来週コマツさんが来るねんて」
「あらそうなの」
「それが再来週になるかもって言ってるらしいねん」
「ほんでなトモミさんは来週がアカンねんて」
「うん」
「ほんで再来週に予約している店って変更できるんかな?」
「明日、聞いてみるわ、んでいつなの」
「うん、まだわからへんって言うてる」
「あら、じゃどうする?」
「トモミさんと相談するわな」
「おっけ、決まったら言って」
「このカマおいしいなぁ」
「うん、でもちょっと小ぶりやわぁ」
会員制のお店で僕の名前で予約している店だ。僕しか予約の変更は受け付けてくれないシステムだ。それにしても最初に
「予約って変更できる?」って一言きいてくれると・・・口が裂けててもそんなことは言えない。小ぶりになったカマに不平をいいながらもうれしそうな顔で箸を動かしている嫁に向かってはッ!

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