衝撃の一言

ゴールデンウィークの有田陶器市

福岡から佐賀県の有田までは車で2時間まではかからない。ある程度の土地勘はあるし、「9時前に家を出れば余裕でお昼前には着けるはずよ」とそんな話をしながらふたり車で出発した。ちょこちょこと家の周りの買い物には出かけることはあるが片道2時間近いドライブはちょっと久しぶりだ。ましてや嫁さんは自分が好きな食器が安く買えるという期待で目が輝いている。やたらと助手席から話しかけてくる。「コーヒーは飲まないわ、トイレ行きたくなるし」聞いてもいないのにそんな事を言っている。嬉しそうだ。

福岡から佐賀までは目的地にもよるが高速を使っても、一般道でもさほどストレスなく行くことができる。有田までは高速を使わずに北側のバイパスを使って行く方が便利で安く行くことができる。昔を懐かしむように僕が大好きだった「イーグルス」を聴きながらドライブする。僕もなんとなく楽しくなってくる。バイパスは唐津市を抜けて伊万里市を過ぎてあっと言う間に目的地の「有田」についた。幸いにも途中、渋滞もなく心配したトイレ休憩もすることなく無事に到着することができた。

会場のそばの駐車場を探り当てて車を停めた。
「お疲れちゃん」関西の女性はたまに言葉尻に「ちゃん」をつけて話す。僕の嫁さんが「ちゃん」を付けて話すときは確実に機嫌がいい時だ。
「はいよ。結構早く着いたなぁ」軽く答える。家の軒先に木製の台をひろげた上にたくさんの食器が色とりどりに並んでいる。少しして気づくといつのまにか人が増えている。一気に混みだした感じだ。そう思いながら歩いていく。嫁さんは道路の両脇をキョロキョロしながらとても楽しそうだ。そして立ち止まって気に入ったものを手にとって眺めて裏にある値段を確認しては、僕に「これは安いわ」「えぇ〜こんなするん」「あぁやっぱりな、いいなと思ったやつはやっぱりいい値段するな」と独り言なのか僕に話しかけているのか判断がつかない。そうしてぼちぼち歩いているうちに嫁さんがお茶碗を気に入ったらしかった。
「あぁこれいいわ、気に入ったわ。ねぇよくない?」確実に質問してきている。
「うん、いいんちゃう」と返事しても耳には届いていないようだ。
「すみません、これって同じやつ、2つありますぅ?」
「あ、はい、ありますよ」そう言って店番をしていた若手の陶芸家っぽいお兄ちゃんがたくさん並べてある中からもうひとつを探して嫁さんに渡してくれた。
「なぁよくない?これ」嫁さんはすっかり気に入った様子だ。
「まけてくれるんかなぁ?」嫁さんが小さな声で聞いてきた。ここは佐賀県だ。ホームではなくアウェイにいることは自覚しているようだ。
「聞いてみたら?」
「せやな」そう言うと
「おにいちゃん、これぇちょっとまけてくれる?」
「関西からですか?」すぐにバレてしまったようだ。
「はい、いいですよぉ〜」おにいちゃんが笑いながら答えると、そこからが関西人の本領発揮だ。スイッチが入ったようだ。
「もうちょっといける?」
「いやぁもともとお安くしているんでもう限界ですから」そんなやりとりが数分続いた時だった。嫁さんが
「ええやろ、うちらにおまけした分、次のお客さんからとったらええやん、なっ?」
お兄ちゃんが一瞬固まった。横で楽しく相槌をいれながら見ていた僕もその一言には流石に一瞬引いてしまった。結局、根負けしたお兄ちゃんから更にチョピリおまけしてもらって二人でその店を後にしたのだった。

有田陶器市で

さすがの僕も一瞬引いた衝撃的な一言

前にも書いたかもしれないけど、僕の嫁さんは食器に結構な思い入れがある。ロイヤルコペンハーゲンとかウェッジウッドといった高価なものも好きではあるのだけれどどちらかと言うと日々の食事で使える食器に対して思い入れがある。ブランドにはこだわりがある訳ではなさそうに見える。でも、前に香港で見つけたウェッジウッド製の香港の有名スポットを形取ったお皿は一瞬で気に入って「これめっちゃいいわ」買ってもいいって聞く前に「これ買うわ」って買ったりもしていた。確かに記念になるしそもそもとても貴重な意味のあるものだし、それは今も思い出としてリビングに家族の写真と一緒に飾ってある。

まぁそんなこともあったりするけど要は自分は気に入ったものをとにかく手に入れたいと思っているようだ。当然だけどね。よく夕飯の支度をしながら「あぁ〜やっぱり魚をおけるちょっと細長いお皿がちゃんと欲しいわぁ」とか、「白くて少し深くなってて小ぶりのお皿がいるわぁ」とか独り言を言っている。煮物とかを作りながらリビングでテレビを見ている僕に「ちょっとこれのお皿とってくれる?」と言ってくる。テレビをみている僕は「はいよぉ」と軽やかに椅子から立ち上がって、でも「どのお皿だっけ?」と必死で記憶を呼び起こしながら食器棚からお皿をさがす。さほど広くないキッチンで手際良くいくつもの料理を仕上げている嫁さんにとっては「タイミング」がとても大切だ。「お皿をとってくれる」と言う時も僕の方はみていない。きっと頭の中でこれをやって次はこれって感じで料理を仕上げる順番から、使ったボールやまな板を洗ってしまう段取りまで計算されつくしているようだ。当然、イラついている。そして自分の思ったタイミングでお皿が手元に届かないとついに僕の方に目をやって「いつも食わしてるやろぉ〜その皿ちゃうッ」そう言うとツカツカと食器棚の前で変にニコニコしながらしどろもどろ僕を睨みつけながら「ホンマ、作りがいがないわッ」「ちゃんとどの皿で食ったかくらい覚えとけっ」と言うのである。「はい」としか返しようがないではないか。だって覚えてないんだから。仕方ないのである。嫁さんの名誉のために紹介しておくが、料理は美味しいと本当に思っているし、必ずテーブルには3品か、4品が最低並ぶ。正直なところ感心するし感謝している。怒り出すのも僕が覚えていないことだ原因であって、覚えようとしていないから仕方ないのだけれど食事が始まると仲良く話しをしながら頂くのだ。その頃には嫁さんの機嫌もすっかりよくなっているのだ。

ただ、食事が終わって片付ける時も僕は怒られることがある。前にも書いたかもしれないが強い思い入れで集めた食器達にはそれぞれに決まったしまうポジションがあるのだ。これがまた曲者なのだ。嫁さんは食事の後片付けは体調が悪いとか酔っ払ったとか余程のことがない限り自分でやり切る。そういう信条ではなく「あんたが洗うとヌルヌルするから嫌やねん」との事だった。なので食事後の僕の役割はおのずと、テーブルを綺麗に拭いてから、すぐに嫁さんの横にいって洗われた食器達を綺麗に拭きあげて食器棚にしまうことになる。そこでも僕は怒られる。嫌らしいことに嫁さんは僕が食器を指定の場所にキチンと戻せるかどうかを背中越しに見ているのだ。本当に頭の後ろに目がついているんじゃないのかなと思えるくらい絶妙のタイミングで「それはそことちゃうやろ、こっちやッ」と指摘してくるのだ。最近は食器達の指定されてポジションで怒られることはだいぶ少なくなった。

そんな嫁さんが「有田陶器市って知ってる?」と聞いてきた。当時、僕らは福岡に住んでいた。関西出身(正確には尼崎だ)の嫁さんも東京行くよりは福岡ならってことで興味をもってついてきてくれた。住みはじめてしばらくしてから嫁さんが不思議そうにに「あんなぁ〜買い物してるとたまに「あぁ関西の方ですかぁ?」って聞かれんねんけどなんでやろぉ〜」と真顔で聞いてきた。
「はぁ〜そりゃわかるやろ、関西弁やろ」関西出身ではない僕が質問してくること自体がおかしいんじゃね?くらいの気持ちでいうと
「えぇ〜?わかる?」真剣に聞き返してくる。
「わかるやろぉ〜」というと
「そうかぁ〜なんでやろぉ」と言う調子だ。決して悪気はないのだけれど関西出身の方々はどこに行っても関西弁で押し通す傾向にあるようだ。さらには関西出身でないやつが関西弁らしく喋るのを嫌がる傾向が強い。たまに僕がテレビのCMで流れる「関西電気保安教会」を音符をつけて「かんさい電気ほぉ〜あんきょうかい♪」と歌うそばから「あぁ〜もぉ全然ちゃうわ」とダメ出ししてくる。話がそれてしまった。

「あぁ〜有田焼きかぁ知ってるよ。柿右衛門でしょ?」と言うと
「毎年、陶器市やってるんだって、行ってみたいわぁ」
「いつ?」
毎年4月末のゴールデンウィーク中に佐賀県で開催される九州の陶器市だ。佐賀県は福岡のお隣県だ。僕も興味がない訳ではないし、ましてや食器に思い入れのある嫁さんが目を輝かせている。二人で出かけることにした。(つづく)

ご機嫌なんです。

夫婦の会話と家庭内平和

きっと何かしらの相関関係があるに違いないと確信している。嫁さんとの会話が減ると家の中に居ても何となく居心地が宜しくない。でもここんとこなぜかすこぶる居心地がいい。何故かというと嫁さんの機嫌がいいからだ。嫁さんがいつになく話しかけてくる。実はそれ以上に僕はちょっとだけ意識していることがあって、それはこっちからきちんと返事を返しているんだ。はい、ちゃんと意識して返事しているんです。そして時にはあえて、嫁さんが興味をもちそうなというか会話になりそうなちょっとした話題やネタを会話に仕込んでいるんです。意図的にね。要は会話作りをしているんです。いえいえ、それほど大したことじゃぁないんです。仕事から帰ってから今朝の電車は混んでいたとか、今日のお弁当の玉子焼きに紅生姜が入っていたけど、食べる前はハムの細切りかと思って食べたら違ったわといった内容だ。それに嫁さんが嬉しそうに話を続けてくれているんです。こんなん前にはなかったなぁ〜って思っていて少し新鮮なんです。はい(笑

実は少し前に結構な夫婦喧嘩をしたんです。いつもなら嫁さんの怒りをしっかりと受け止めて何とか宥めよう、落ち着かせようとばかりしていたんですがこの時はなぜか勢いよく大きな声で攻めてくる嫁さんに結構な大声で反撃したんです。するとどうでしょう?大きな声を出し合ったせいもあるんでしょうけど、その後はすぐに仲直りできて何かスッとした気持ちになれたんです。今、こうして振り返ってみると最近の嫁さんのご機嫌な様子はあの時の大喧嘩があったからかなって思うんです。

話は変わりますが、今、嫁さんは過去に経験したことがないくらい重症の腰痛に悩まされています。最初はえへへ、ざまぁみろぐらいに正直なところ思ったフシもあったんです。でもすぐによくなるだろうとタカをくくっていたんですが一向に良くならなくて流石に僕も心配になって知人に教えてもらったカイロプラクティスの先生にところに一緒に診てもらいに行ってきました。初診でレントゲンを撮って翌週、それを見てびっくりです。背骨が緩やかにではですが「S字」に湾曲しているんです。以前から前を歩いている嫁さんの後ろ姿をみてちょっと右肩が下がっているなぁとは気づいていたんですが、その原因というか腰痛の根源をレントゲンという明確な証拠でみるとさすがにかわいそうに思えました。若い先生ですが、きちんと症状を説明してくれて今は1週間に1回の割合で通って治療を受けています。仕事の都合で付き添えない時もありますが、土曜日の午前中に予約がとてたときは一緒に手を繋いで通っています。これも家庭平和の要因というか楽しい一時でもあります。もう少し時間がかかりそです。家庭平和ももう少し続きそうです。でも、早くよくなるように祈っています。いや本当に(笑

少し前に「えっ?」って驚く事を嫁さんが指摘してきたんです。それも突然、「最近、好きと言われていないわ」と言うのです。正直言って驚きました。内心、めっちゃ驚きました。すぐに平静を装って「えぇ〜そうやっけ?」ととぼけて「好きよ」って返したのですが、冷静に思い返してそう言えばそうだったかなと反省でした。そして反省すると同時にそんな事を思ってて、きっとずっと思ってきたんだろうなぁって嫁さんの健気さにちょっと悪い気もして可愛くも思われて心の中で「好きよ」と言いました。最近、我が家は平和です(笑

密着警察24時と

家、ついていってイイですか?

ぼくの嫁さんは「密着警察24時」が大好きだ。自宅のテレビは1週間分の番組を自動で録画してくれるのだけれど夕食が食べ終わって後片付けして少しのんびりした時間になるとリモコンを取り出して番組メニューからこの手の警察シリーズを探し出してチャンネルを切り替える。ぼくはまったく気づいていなかったのだけど、いくつかの放送局が警察や交番を密着して記録した番組を放送していて激撮や激録警察24時、福岡中洲交番24時、仙台で有名な国分町交番での人間ドラマが好きなようだ。ほかに好きな番組はテレビ東京の「家、ついて行ってイイですか?」だ。嫁さんはこれは警察24時とちがって深夜にひとりでシンミリと観るのが好きらしい。駅前や繁華街で深夜に声をかけてタクシー代金負担するので自宅へついて行って話を聞かせてもらうというドキュメンタリー番組といってもかな?嫁さんに先立たれて一人でくらす老人やついて行った先の家がゴミ屋敷だったりと意外な展開がそれなりに興味深く引き付ける。嫁さんは番組で繰り広げられる人生ドラマの過去と未来について頭の中で想像をめぐらせて時には番組以上に自分で想像して感傷に浸っているようだ。たまにだけど僕も一緒に観るときもある。それなりに楽しいのだけど僕が横でピーナッツをビールでバカ食いしていると不機嫌になるのだ。この番組を一緒に観るときは焼酎にしたほうがよさそうだ。


話は変わるが、ぼくの嫁さんは部屋の飾り付けにはちょっとしたこだわりがあって、いつもどこかしら小さな小物の場所を変えたり新しく人形を追加したりしている。これがまた無頓着な僕には変化が分かりづらくいつも小さな喧嘩というか言い合いになると「あんたは私が飾っているものにも気づいてへんやんけ」と始まるのだ。たまにだが、変化に気づいて気を使って「あれ、あの小物買ってきたんだぁ」とか言おうものなら「やっぱり気付いてなかったな、先週やで、買ったの」と墓穴を掘ってしまう始末だ。どうしても慎重にならざるを得ないのだ。そして「余計なころは言わない」これに限る。そぉ~としておくのが一番なのだ。かと言って、嫁さんは専業主婦なので基本は家で過ごしている。朝、僕を送り出してからは家事をして家にいる間は誰とも会話をしない日々を送ってくれている。ごくたまにではあるが知り合いの同年代の奥さんとランチを兼ねて「会話」を楽しんで過ごしているようだ。そうは言っても女性は曲りなりにも夫の僕と会話をしたいと思っていてくれているらしいフシはある。ようだ。たぶん。たまに発生する喧嘩の時、ぼくは徹底的に無口を決め込む。嫁さんも無口になる。数日が過ぎて無口に疲れてくると何かの拍子に目が合うと一気に気持ちが溢れでてくるのだろう、「もぉ~」と言って目を赤くしてとびかかってくるのだ。そうして喧嘩が終わる。毎回の事だけど僕はこんな嫁さんが大好きだ。

お蕎麦屋さんで

僕の嫁さんは兵庫県の出身だ。でもあまり親しくない人から聞かれた時には兵庫県とは言わずに関西ですと言うようにしているようだ。決して兵庫県とは言わない。ましてや尼崎とは自分からは言わないようにしているようだ。
駅を出て嫁さんが心当たりがあるという「蕎麦屋」に行ってみることにした。前にSNSでみてずっと気になっていた蕎麦屋だという。最近はなんでもスマホで調べたがる。そして気になった記事や情報のリンクをLINEで送ってくれる。実はこれもちょっとしたいざこざのネタになりかねない。送ってもらうリンクには当然、ぼくが知らない情報ばかりなのだが送られてくるリンク先をすべてチェックしているわけには行かない。会社にいるとそれなりに仕事はしているし、会議や電話対応などしている時もあるからだ。そう言うときは「既読」にならないようにスマホのロック画面でも見れる情報だけ軽くみてメッセージ自体は後から開くようにしている。返信をしたくない訳ではなくて返信が出来ない状況にあるのだ。当然、中には見落としや見ても記憶に残っていない情報が発生することになるわけだ。すると、嫁さんから「この前、リンク送ったで、えっ!見てないん?」ともめるネタになってしまうのだ。不本意ではあるが見ていないものは確かにある。その点について見ていない理由、嫌見れなかった理由を状況説明から進めても決していい妥協点は見いだせないのだ。仕方なく「ごめん、見てなかったわ」というより他にない。


当たり障りのない返事をしながら嫁さんが目指す蕎麦屋へ向かう。お昼時を少し過ぎていたこともあって待たずに入ることが出来た。
「いらっしゃいませぇ~お二人様ご案内でぇ~す」、アルバイトだろう。学生風のお兄ちゃんが元気な声でテーブルまで案内してくれた。店内は食事を終えて話し込んでいる主婦らしい女性や、少し歳のいったご夫婦たちやらでテーブル席のほとんどは埋まっている。暖簾の先に見える厨房の中には数人の人影が忙しそうに動いているのが見える。
「何にしようっかなぁ~」嫁さんは蕎麦の種類で迷っているようだった。ぼくは「カツどんとざるそば」のセットに決めた。嫁さんは迷った末に「にぎりと鴨そば」のセット。
「お決まりですか?」テーブルまで案内してくれたお兄ちゃんがタイミングよく注文を聞きにきた。出されたお茶を飲みながら最近の嫁さん友達の話を聞く。ぼくは聞き逃さないように注意して聞いている。嫁さんはお友達の話題を終えてスマホをいじりはめた。注文して15分程度は経っているだろう。ぼくも少し気になって「遅いなぁ」とつぶやくと、嫁さんも「せやなぁ、混んでるのねぇ」
スマホいじりも続かなくなった嫁さんが座ったまま背伸びをするように周りのテーブルを見まして「あそこのテーブルの人たち、うちらの後から来たよなぁ~」不機嫌そうに聞いてきた。
「あ、そうやな、うちらのほうが先やったと思うわ」
「もう食べてるわ」嫁さんがさらに不機嫌になっていくのがわかる。ぼくにはこのような状況で前に苦い経験がある。注文した料理を遅れに遅れてもってきた店員に対して嫁さんが厳しいお叱りをされたのだ。一旦、心の中の怒りの炎が燃え出すと収まらないことをぼくはよく知っている。その怒りの炎に「正義」とい大義がある場合は尚更だ。この時もぼくはこの怒りの炎が噴火しないことだけを祈りながらスマホをいじりながら心の中で静かに祈りながら「おすしと鴨そばのセット」を待っていた。すると先ほどのお兄ちゃんがサンダルをぱたぱたと鳴らしながら注文した品を両手にもってテーブルにやってきた。すでに有に20分以上は待たされていた。「お待たせしましたぁ」と両手にもったお盆ごとぼくたち二人の前に配膳してくれた。頭をチョコンとさげて厨房へ戻ろうとするお兄ちゃんに対して嫁さんが顔をあげて声をかける。
「ちょっと待ちぃや」
「はいっ」ちょっと緊張と戸惑いの顔でお兄ちゃんが立ち止まる。恐らく本人の気持ちの中にも「待たせすぎた」という申し訳ない気持ちがあったのだろう。そこへ、「ちょっと待ちぃや」の一言だ。ドキッとしたに違いない。ぼくは二人をみながら「ヤバい、始まるわ」と覚悟を決めた。そんなぼくの気持ちは気にもせず、お兄ちゃんに続ける。
「お待たせしました、ちゃうやろ?」「あちゃーマジに始まるわ」ぼくはさらに覚悟を固くした。
「はいっ」さらにこわばった顔のお兄ちゃんが小さく返事をする。嫁さんが続ける。
「た・い・へ・ん・、お待たせしましたやろ?」そう言って嫁さんが笑いかけるとアルバイトのお兄ちゃんは安堵したように、「あっ、すみません。はい、た・い・へ・ん・お待たせしました。すみません」とすみませんを繰り返していた。繰り返すが、嫁さんは尼崎の女だ。

ファッションセンス

12時半前に二人そろって家を出た。玄関を先に出た嫁さんがカギをしめている僕のほうを振り返って何も言わずに含み笑いをしていることに気が付いた。「何?」と聞くと「なんでもないわ」と言ってマンションの出口のほうへ歩き始めた。少し早歩きをして嫁さんに追いつくと背中越しに「何笑ってるん」と聞くと「なんでもないわ」と繰り返してきた。それ以上聞くとしつこいなと自覚したぼくは嫁さんの背中に舌を出して後に続いた。外は快晴だ。昨日の雨で空気中の細かなホコリなんかが洗われたのか空気が澄んでいるように感じる。歩道の脇の花壇の黄色い小さな花がゆっくり揺れている。どこかへ出かけるときはこうしていつも二人で駅まで歩いていく。
ぼくは典型的な「釣った魚に餌をあげない」タイプだ。気の利いた会話もさほど得意ではない。だからたまに話をしたがる嫁さんとは話をしないことで喧嘩に発展したりする。別に話を聞くこと自体は苦痛でもなんでもないのだけど、話が長いことには少し苦痛を感じることもある。嫁さんの友人が持っているバッグが可愛いという話の結論をぼくに話すときに何故にその友人と旦那が話している会話から始めてくるのか分からない。回って回って、えっ?言いたかったのはそこなん?と内心思うことはよくある。まぁ~これはぼくの友人からもよく聞く女性の習性らしいから仕方ないとは思っている。きっと気の利いた旦那さん方は奥さん方の話が遠回りしている間もちゃんと目をみて相槌をうって聞いているんだろうなと感心する。


「付き合い始めたころはダサかったもんなぁ~」突然、少し笑いながら嫁さんがよこを歩いているぼくの顔をみながら言ってきた。
「はぁ?そっかぁ~それでさっき笑ってたんかぁ」
「誰のお蔭やと思ってるん?私やで」
「・・・はい」ぼくが着ている服は嫁さんチョイスだ。基本的に自分ひとりのときは服は買わないことにしている。付き合い始めてからずっとそうだ。要するにぼくにはファッションに関するセンスがないのだ。逆に嫁さんは兎に角ファッションについてはとびっきり興味があって、それなりにセンスがいい。しかも安いものを高く着飾るテクを持っている。歩いていると突然、「あっ!あれ可愛い」と言ってショーウィンドウ越しに見えるスカートなんかを見極めたりする。さらにもっとすごいのがその値段をしっかりと記憶していることだ。この記憶能力は我が家の家計をすくなからず助けてくれている。それは服だったり食料品だったりの「物」とその「販売価格(価値)」とを即座に釣り合っているか?価値があるかを判断するのだ。「えぇ~これでこの値段はありえへんわ」「この服はこの前みた時より安くなっているわ、でももうすぐセールやからもうちょっと待つわ」と一人で私に説明してくるのだ。でもぼくは嫁さんがこうしてぼくと一緒にウィンドウショッピングをしていることが楽しいんだということを知っている。だから遠くを回ってたどり着く回りくどい話も、少し退屈になるけど笑いながら付いてあるけるのだ。
「先に何か食べようか?」電車をおりる前に嫁さんに聞くと、
「せやなぁ~先に食べようか、何食べる?」
「和食は?」ぼくが聞くと
「そうやな」嫁さんが笑った。

自分勝手ですか?

それにしても女性という生き物は何故にこうも自分勝手な思考をするのだろうか?
いや、ここも明確に訂正しておかないといけないな。世の中の女性というべきではなくてぼくの嫁さんだけじゃないと思うのだけれど少なからず、いやきっと多くの男性の皆様、とくに結婚して3年程度がすぎた諸兄の皆様には賛同頂けるのではないかと思っている次第ではあります。相手、要するに僕のことを「ほんまに自分勝手やなぁ」といつも指摘してくるのだ。例えば、トイレットペーパーが残り少なくなっている状態で用をすませたとします。そんな時は替わりの新しいロールをセットして、先にセットされていた残りが少なくなったほうのロールは新しくセットしたロールの上にちょこんと乗せておくのが嫁さんがつくった我が家の基本的なルールなのです。そしてたまにですが、用を足しにはいったトイレで少なくなったロールに出くわして新しいロールをセットするのを忘れていると、後からトイレにはいった嫁さんは必ずこう言うのです。
「いつも言ってるやろ、次に使う人の事を考えておけって、ホンマに自分勝手やなぁ」と!でも、それは確かに忘れているときもあるのですが、時にこれくらいの残り具合だったら新しいロールをセットしなくてもいいかなとの判断による行為であって、自分勝手に面倒臭いから新しいロールをセットしなかった訳じゃないんだけど・・・と思いながらも「自分勝手な旦那」にされていまうのです。
そして別の例ですが、部屋のエアコンの設定温度を事前に聞かずに変更しようものならそれはそれは大変なことになる。例えば嫁さんがキッチンで夕食を作ってくれている間、リビングでスマホをいじりながらテレビを観ながら待っているときにエアコンの効きすぎで「少し寒くなってきたなぁ」と温度設定を少しあげたりすることは世の中の一般家庭ではよくある、ごくごくありきたりの事と思います。我が家のキッチンはリビングから少し奥まっておりそして狭いこともあって火を使うと一気に蒸し暑くなるですが、キッチンから出てきて料理をリビングのテーブルまで持ってきて並べ始じめてすぐに「温度あげたよったな、人が暑いの我慢して作っているのに、自分だけ涼しいところにおって、ほんま自分勝手やなぁ~食べさせへんで!」と低い声でにらみつけるのだ。このような時はそう言われても仕方ないので素直に謝るのだが、今は必ず設定温度を変えるときは事前に聞くように心がけるしかないのでだ。

「お昼はどうする?、ちょっと買いたいものあるから外に食べに行こうか?」と部屋の中のことをちゃっちゃと済ませてひと段落している嫁さんが聞いてきました。
僕は敢えて何を買いたいのは聞かずに「いいでぇ」と答えます。なぜっ?て、こういう場合は前に「あれが欲しいんだけど」と僕に相談しているケースがほとんどなのだ。
嫁さんは基本的に買い物をするときは事前にぼくに買ってもいいかどうかを聞くようにしてくれている。喧嘩したときなどは事前申請無しに「えっ!それ買ったん?と言いたくなるものを平気で買ってきたりするのだが、この場合も「あれ」について聞き返すと藪蛇になりかねないことを知っているぼくは敢えて「あれ」が何かということを聞き返したりはしないのだ。なぜかと言うと「あれって?何」などと聞きかえした日には「ホンマ人の話聞いてへんなぁ」とまた小言が始まるからなのだ。あれと言われたら何を指しているのかをすぐに頭のなかで検索しておかなければいけないんのです。そうしないと「ホンマ都合のいい耳してるなぁ」と言われかねないのだ。

「11時ぁ~12時半頃でる?」ぼくが声をかけると、嫁さんは壁の時計を見上げて少し間をおいて「うん、いいよ」
ぼくの嫁さんは出かける時の支度に最低でも1時間はかかる。以前、嫁さんのこの支度時間を考慮せずに出かける時間決めようとして何度も「自分勝手やなぁ」と怒られたことがある。もうそんなヘマはしないのである。嫁さんは機嫌よく寝室のクローゼットにある着ていく服を選びにいった。しばらくするといつもの事だけど、「どっちのバックがいい?」と両手に色やデザインの違うバックを持ってきて聞いてくる。ぼくが答えたほうを選択することは、まぁあまりない。何のために「ホンマ、センス悪いなぁ~」という相手に毎回、毎回聞いてくるのだろうか?でも、それを無下に返事してはいけないのだ。さほど知識やセンスがないこをがばれると分かっていても「右の方がいいんちゃう」とか、左のほうが服に合っているような気がするとか会話をするのがいいのである。最近はとくにそう思っている。すると、嫁さんはニコニコしながら僕が勧めたほうとは逆のほうを選んでクローゼットに戻っていけるのだ。それでいいではないか。

服が決まると次は靴だ。クローゼットの上の天井との間には箱に入った靴がキレイに整頓されてならんでいる。箱の面にはマジックで「赤パンプス」や「茶スリッポン」と特徴が書いてある。足は二本しかないのに何足いるの?というくらいの靴を所有されている。フリーマーケットでも出来そうなくらいだ。そして、靴の次は装飾品だ。ピアスにネックレス、同じように身に着ける前に僕のところに聞ききにきてくれて進めたほうとは違うほうをニコニコしながら着飾るのです。これでいいんです。これから楽しくお出かけです。

嫁さんの分からない思考回路

なんで、そぉ〜うなるの?

僕は常々嫁さんに対して分からないところがある。それは常に自分と同じことを考えていると思っているのだろうか?ということだ。

その日、僕は嫁さんよりも30分程度遅れて起きた。リビングのテーブルで小さな鏡を覗き込んでいる嫁さんに「おはよう」といつものように小さく声をかけた。
「おはよう」いつもより少し低めの聞こえるか聞こえなかの声で返事が帰ってきた。そしてずっと鏡を覗き込んでいたはずの嫁さんがなぜか上目遣いに僕を見たようだった。一瞬だけど心の中で「ん?」と思ったのだが、さほど気にする事なくテーブルの横を通り抜けてトイレへいった。用をすませてリビングに戻ってゆっくりと指定席に座った。9時を少し回ってる。週末の朝の情報番組がコマーシャルになったと同時に鏡から顔をあげた嫁さんが
「なんで起きないのに目覚ましをセットしてるんよ?」
「今朝、8時に目覚ましかけてたやろ!」
「目覚ましセットしたんなら起きろよ!」と一気に捲し立ててきた。
「へっ?」思い出した。確かに昨夜寝る前にふとした気持ちの昂りから『明日は8時に起きてやろっと』と思い立ってスマホの目覚ましをセットして寝たのだった。
戸惑っている僕の様子をみて嫁さんが畳みかけてきた。こう大義名分が明確なときの嫁さんは限りなく強い。
「あんたがセットした目覚ましで起こされてんでぇ」
「もうちょっとゆっくり寝ようと思ってたのに、ったく」
「いつも言ってるやろぉ 起きないなら目覚ましセットするなって!」
「いやぁ~それは言われたことないけどなぁ」と思いながら
「あぁごめん」というより仕方ない。
その後も何か文句を並べているが、聞いているふりをして聞き流していると
「聞いてんのかぁ?」と確認の質問がとんでくる「聞いてるよぉ」
申し訳なさそうな顔で返事をしながら嵐が過ぎるのを待つしかないのだ。
きっと嫌な目覚ましに起こされてからずっとぼくに対するイライラを募らせていたんだろうなぁ~そして一通り言いたいこを言い切ったのだろう。しばらくすると嵐はなんとか収まった。「よかったぁ〜やれやれだ」と唐突に
「何送ろうかなぁ?」何か会話をしていたわけではないし、嫁さんはしきりとスマホで何か調べているようだった。
「送る?誰に?何を????」何のことを言ってるのかさっぱり検討がつかない。何のことを言っているんだろ?誰の話だろう?最近の嫁さんとのトピックを頭の中で必死に思い出そうとするけどまったく心当たりがない。
「どうするん?」当たり障りのなさそうな返事を返してみた。

そもそも何故に女性は自分が考えていることを相手も同じように考えているという想定で突然話しかけてくるのだろうか?ぼくが学校を卒業して入社した会社の研修で教わったことの中に「相手は何も知らないということを忘れるな」というのがあった。先輩社員から「お前が説明する製品のことは相手はまったく知らない、その事を忘れるなよ」そう教わった。ぼくのために嫁さんにもこの事を教えてあげたい。

思い出したぁ〜実家のお母さんに送る誕生日プレゼントのことだ。先週、そんな話をしていたことを思い出した。そして「おかあさんのプレゼントやろ?」さも、何もなかったような素振りで返事をすると、
「うん、何がいいやろ?」嫁さんはスマホから目を離すことなく小さな声で返事を返してきた。よかった。スムーズに会話がつながった。もしぼくが嫁さんの「何送ろうかなぁ?」を聞いて、「何のこと?」と返事をしたとしたらどうなっていただろか?「あんたはいっつも私の話をきいてないやろ!」から始まって昔の揉め事をひとつひとつ掘り起こされて険悪な感じの朝になるところだった。