スマホと携帯

嫁さんの携帯には赤い通知バッジがいっぱい

僕は嫁さんに携帯を常にオープンにしている。それは結婚当時からずっと変わらない。帰宅するとリビングのテーブルに無造作に置きっぱなしにするし「ラインンン」とメッセージが届いても手が離せない時には「誰やろ?ちょっと見てくれへん?」そして嫁さんに内容を読み上げてもらって返事を返してもらうこともある。当然、iPhoneのパスコードもお互いに知ってるし各種アプリやWiFiなどのID、パスワードも知っている。嫁さんはITにはとんと弱くすぐに「わかれへん、やって」と僕に何でも丸投げ状態だ。こんな風にお互いに携帯を見る環境にあるのだけれどそれの使い方まったく相いれない。嫁さんの携帯で一番信じられないのはメールやアプリの新着通知の赤丸バッジがやたらといっぱい残っている点だ。メールのアイコンの端に10以上の数字で新着を教えてくれている。メールだけはない。ホーム画面上の複数のアプリに赤丸のバッジがついているのだ。僕からすると「ありえない」ひとつでもホーム画面にバッジがあるとそれを消し去らないと気持ちが収まらない。たまにメールは読み込みのタイミングとメールを開いたタイミングのずれで読んだのにバッジが残っていたりする。意地になって携帯のキャッシュをクリアしたりそれでも消えない時は携帯の電源自体をリセットしたりしている。嫁さんに聞いたことがある。
「赤い通知、気になれへんの?」
「ぜんぜん」
「あ、そ、」
そんな嫁さんと僕だけどなぜかスマホとは言わずにずっと携帯と言っている。

クリスマスに思うこと

悪いのはいつも僕さッ

クリスマスを前に嫁さんが風邪を引いた。基本的に自分に起こる負の出来事の起因は自分以外にあるというのが嫁さんの考え方だ。いつも風邪をひくとすぐに「あんたが出張先から風邪をもらってくるから私に移ったんや」と僕を責めるのだ。嫁さんはいつも自分に起こる負の出来事が全て僕に起因していると主張するのだ。でもごくたまに嫁さん自身でも、いくらなんでもそれは僕が起因とはならないだろうと思うこともあるらしく、まさに今回の風邪っぴきがそうだ。2日前にひき始めから全く僕に攻め入って来ない。誰にも鬱憤を当てつけられずに大人しく小さくなっている。でも一言だけ「この風邪薬、全然効かへんわ、パブロンあかんなぁ」とひとり呟いている。とにかくどこまで行っても自分だけは悪くないらしい。

クリスマスの飾りつけをみるといつも思うことがある。確かに部屋の中をかわいい小物や玄関のリースを見るとそれなりに気分はクリスマスモードにはなってくる。食卓のマットが赤基調に変わるとフムフムやっているなと内心褒めてあげたくなるのだ。ただ困ったこともある。それは夕食のときに突然始まる。
「あんたまったく気づいてへんなぁ」
「はぁ?何が?」
「ひとが苦労して飾りつけしてるのに何も言ってくれへんし」
「お疲れさん、いい感じやん」
「いっつも私が言ってから、そうやっていうだけやろぉ~ホンマやりがいないわ」
「雰囲気でてるしいい感じって思ってたで」こうなると何を言ってもとりつくろえないのだ。どちらかと言うと僕は「釣った魚にはエサをあげない」タイプのようだ。それは少なからず自覚している。なので嫁さんに何かしてあげることは少ない。いつもあんたはなんもしてくれへんと愚痴られている。その気持ちがない訳ではないがやるときは大きなことを内心思い続けているのだけど、世間からみると女性には小さなことをたくさんするほうが効果的らしい。それに比べて僕の嫁さんは僕のためだじゃないとは思うが結局見て楽しむのは実質的には僕と嫁さんしかいないのにあれやこれやと部屋中を季節に合わせて飾りつけに凝っている。それが好きなのだと言ってしまえばそれまでだけど、どうも僕を喜ばせたいと思っているようなのだ。そして落胆して出る言葉が
「あんたまったく気づいてへんなぁ」なのだ。リビングのショーケースの中に小さな妖精の置物にどうやって気づけというのか?と言いたくもなるが決して言わない。部屋の隅には新しく買ってきた小さなクリスマスツリーが飾られている。嫁さんが言う。
「これめっちゃ安かってん。思わず買ってもうたわ」嫁さんのお蔭で今年も楽しいクリスマスだった。

大切な日

出張先で思うこと

年に一度の大切な大切な一日中がやってくる。ぼくを試すかのようにじわじわと希望商品の話題が会話にあがる。百貨店を特に予定もなくプラプラ歩いている時にも

「あっちょっと待って、こっち」そう言われてシューズショップに引き込まれる。

「ちょっと履かせてもらっていいですか?」店員さんにサイズを告げる。足元だけを映す鏡を見ながら

「これいいわぁ」

「でもベージュかなぁ?」

「すみません、ありがとう」店員さんに丁寧にお断りして店をでる。

「やっぱ黒やわ」これもプレゼント商品の候補だからねと言わんばかりだ。

「ちゃんと靴のサイズ、覚えたんやろな」と目が念押ししてきているのが分かる。

それはサプライズを期待している反面、現実的な側面もしっかり抑えていて、もしこの靴をプレゼントで買うなら色は黒だよ。

サイズは23cmなって教えてくれているわけなのだ。なのに鈍感なぼくは嫁さんの気遣いにはまったく気づかずに頓珍漢なプレゼントを買ってしまうのだ。

実は今、ぼくは長期の出張中で家にはいない。出張の最初は晴れやかな自由を得た気分になれる。昼間は当然ながら予定された仕事が待っているのだが夜はあえて予定を入れてない日も多い。しかも今回の出張はひとり仕事で、ある程度というか自由気ままな出張なのだ。夕方が近づいてくると心の中で少しニマニマとした気持ちになってくる。飛び込みで居酒屋に行くこともあるし前に寄った店を思い出して入ることもある。基本夕食を兼ねたひとり飲みだ。それでも正直言って3日め、4日めになると飽きてしまうのかそれとも寂しくなるのか面白みがなくなってしまうのだ。結局コンビニでビールとつまみを買って間に合わせるというパターンになってしまう。普段なら面倒な奥さんから届くラインにもついつい早めに反応してしまうのだ。すると

「あれ?今日は早いな、どうしたん?」と聞いてくる。寂しくなったとは決して言わない。どこまで気づいているかは知らないが

あれこれとラインを送ってくる。明日は誰々とどこどこに買い物に行く予定だとか数日間の出来事を聞かされてはいるが頭には残っていない。まぁそんな会話が大切なんだろうけどどうも苦手なのだ。来週には帰るから待っていてくれと心の中で愛を叫ぶのだ。

新型コロナ感染

過信・慢心・気の緩み

先週の木曜日の朝だった。喉の奥の左側の方にあんまり記憶のない軽い違和感を覚えていた。僕の場合、風邪はいつも喉の痛みから始まって肘から手首までの部分に寒さを感じると確実に風邪なのだ。それでも初期段階で喉ヌールと葛根湯でほとんどの場合は寝込むことなく済ませてきた。と言っても最後に喉ヌールを使ったのも覚えていないくらい前のことだ。久しぶりに風邪かな?程度にしか考えていなかった。出勤前にちょっと喉の奥が変だと嫁さんに言うとすぐに葛根湯を出してきてくれた。
「まさか、コロナちゃうん?マスクせぇへんし」
「大丈夫やって」余っていたRATキットを使って検査してみると赤いラインが一本のネガティブサン。
「行ってくるわ」そう言って家をでた。会社でも少し寒気を感じながらも特別体調が悪い感じもなくごぐ普通だった。念の為と思って定時少し過ぎたあたりでお先にと会社をでた。帰宅途中の電車の中もさほど体調に違和感なし。
「ただいまぁ」
「おかえり、体調どう?」嫁さんがキッチンから大きな声ですぐに聞いてきた。
「うん、大丈夫やで」そう言っていつも部屋着に着替えてリビングに戻った。夕食の時も会社であったことなどを楽しく会話して美味しく平らげた。
「でもちょっ熱っぽい感じもするなぁ」本当に最初はその程度だった。
「念の為測ってみるわ」
「そうね」嫁さんが体温計を持ってきてくれた。ピ、ピ、ピ、
「37.7」の表示に一蹴目を疑った。そんなにあるん?軽く熱っぽい感じしかしていなかった。正直驚いた。まさか?4回もワクチン打ってるし感染しないと信じていた。
RAT検査ではくっきりと2本の赤いラインが見えた。
「ポジティブやわ」
「えぇ〜」
「だからマスクしてないからやで」
「もぉ〜」マシンガンのように次から次へと日頃からの僕の不注意に対する不満がとんでくる。返すことばがない。二人の寝室で寝る訳もいかず、追い込まれたのはウォークインクローゼットにマットを敷いた簡易隔離部屋だ。ウォークインクローゼットと言っても寝て両手は伸ばせない狭さで寝ながら見上げると両側には所狭しと嫁さんの服が鍾乳石にように垂れ下がっている。
「はぁ〜」ため息しか出ない。その夜、熱は39.9まで上がった。身体中の関節が痛い。ついさっきまで熱っぽいなぁと感じていただけだったのが一気に熱が上がって身体中だ辛くなってきた。これがコロナか!

簡易閣僚部屋に入ってからは嫁さんとの会話はLINEに限られた。
「部屋を出る時は事前にラインしてや」
「出る前にちゃんと消毒してきてや」
「パブロン置いとくし」
「部屋の中でもマスクしとってよ」
「水もドアの前に置いたで」

翌金曜日に予定していたお客さんに陽性のため会食は延期させてほしいと連絡を入れた。寝るしかないなぁ
土曜日、体中の間節の痛みは少し和らいだものの熱は37.5程度止まり。簡易隔離部屋で寝続けるしかない。一蹴、自分が死んだら嫁さん一人でどうやっていくんだろうかと無性に不安になった。僕のために献身的に動いてくれる。文句は嫌味は多いが決して心から憎んでのそれじゃない。愛あればこそか?早く元気にならなきゃと思う。

「買い物出かけるけど何か欲しいものある?」ラインが入った。
「牛乳」と返した。何故か直感的に飲みたくなった。しばらくしてラインで写真が送られてきた。
「どれにする?」写真に赤丸印をつけて返した。
「 OK」とだけ返信がきた。こうして陽がささない小さな部屋にいると時間の感覚がなくなってくる。ぼぉ〜っとしている間に思った以上に時が進んでいる。少し寝ては起きてを繰り返して土曜日は終わった。

日曜日、36.6度まで下がった.よかった死なずにすみそうだ.体調もだいぶ戻ってきた。関節の痛みはほとんど無い。今日一日養生して明日は何食わぬ顔で出勤したいものだ。
「おはよう、具合どう」すぐ近くにいるのにLINEでの会話が続いている。
「おはよう、36.6だよ」
「よかったなぁ〜あと少しやな」
「うん」いい気になってコーヒーを注文した。
「はいよ」優しい返事だ。しばらくしてドアがノックされて
「置いたよ」声がした。
「ありがとうさん」声で返事をした。




Dyson

嫁さんの笑顔が嬉しい

ガガガガガァ~と変な音がしたほうを見やるとおフロアから上がって髪を乾かしていた嫁さんの驚いた眼と合った。僕はリビングでiPadを開きながらワインを飲んでいた。
「どうしたん?」きくと、少し不機嫌に声で
「なんか中で壊れた破片がカラカラいってて、それがモーターに当たったみたいやわ、ほんま怖いわぁ」
「えぇ~そうなん?大丈夫?」
「うん、まぁ~たまになんねんなぁ~これ」
今使っている古いドライヤー、前に床に落としたはずみで内部の部品か何かが欠けたらしく、そしてその欠けた破片が依然としてドライヤーの本体の中に残ってて使っているとたまにその破片が内部のモーターに絡んでガガガガァと異音を発するのだという。破損した原因が自分の不注意ということを気にしているのかそれほど強く不愉快な顔をみせてはいない。
「新しいの買えばぁ」そう言うと
「うぅん」なにか後ろめたそうな返事をして鏡のほうを向くと勢いよく発出された熱風をボォーと濡れた髪に流し始めた。そんな会話をしたのが2カ月くらい前のことだった。

ポロロン、会社の机の端においたスマホが鳴った。画面の上部に一瞬みえた通知で嫁さんからだと分かった。
「何だろう?」パソコンのキーボードから手を放してスマホを手にしてラインを開くとデパートのスプリングセールのチラシの拡大写真だった。
「はぁ?何だろう」写真に写ったチラシには赤〇の印ある。Dysonのドライヤーだ。ピンときた。と、すぐにメッセージを受信した。
「今〇〇〇に来てるねん」
「新しいの出てるねん」
「でも高いねん」
「前のはちょっと割引きされて安ぅなってるわ!」
「どうしよう?」いつも言いたいことがあると短い言葉で連射してくる。新しいモデルが欲しいのは鼻からわかっているさ。わざと焦らして
「いくらなん」とだけ短く返事する。こういう時はさも仕事をしている風に装うのだ。
「前のやつは2割引きされてるわ」
「新しいのはけっこうするわ」要するに最新モデルは高いなぁという意味だ。でもほしい気持ちだラインからにじみ出ている。不思議なものだ。このデジタルの無機質な文字でもちゃんと人の感情が読み取れる。
「新しのにしたら?」
「ちょっと店員に聞いてみるわ」そう返事がきてしばし音信不通・・・小一時間してからだろうか
「買いましたぁ :)」笑顔マークが付いた報告だ。

「なぁッ 前にやつより音ちいさなったやろ」リビングにいる僕のほうを見返りながら両腕はクレーン車のように肘をまげながらも軽やかに動いている。
「なんかすぐ乾くし、髪がしっとりすんねん、これ」 よくしゃべるクレーン車だ。
「ふぅーん そうなんだ’」
「ほんま全然ちゃうで」
「よかったやん」
「うん」 嫁さんの笑顔が嬉しい。

ハッとさせられた嫁さんのひとこと

前はよく笑わせてくれたで

「お金なんかいらん、会話で私を笑わせてくれ」
月末の木曜日の夜だった。リビングでしんみりと話をしていた時だった。家計の話だ。我が家は決して裕福ではなくてそれこそ嫁さんがなんとか繋いでくれているといった状況だ。毎年海外に旅行に行くわけでもないし毎月での家庭内のイベントを計画しているわけでもなくて、たまにそれも極たまにだけど温泉旅行に行ったりちょっぴり贅沢なディナーを楽しんだりとそんなふうだ。ここんとこ厳しい家計が続いているせいか確かに会話が少なくなっているとは認識していた。そんな状況の中での一言だった。
ハッとした。続いて嫁さんが少し寂しそうに言ったひと言はきつかった。
「前はよく笑わせてくれたで」「いろいろやってくれたで」「うちはお金なんていらんねん」腹の底にずぅ〜ときた。それから僕は必死に前を取り戻そうと出張先からもラインビデオで夜には何をしているかを報告するようにしているし、朝なんてキッチンで朝食を作ってくれている嫁さんに声をかけて会話している。ずっと笑って一緒に生きて行きたい。そう思っているんです。

義父が眠る一心寺 @天王寺にて

今夜はカレー

タイ米でしかもジャスミンライス

少し疲れて直帰した。ここ数日の深夜までの用事で疲れ切ってきた。年々体力の低下を実感するときが増えてきたなぁ〜正直な感想だ。帰宅してすぐにキッチンで何やら夕食の準備をしている嫁さんに「ちょっと寝るわ」とだけ声をかけて寝室のベッドに飛び込んだ。気持ちいい、この寝る直前のわずかなひと時が大好きだ。そんなフワッとした全身の感触を持続する間もなく寝落ちしてしまったようだ。疲れが抜けない。

目が覚めた。最近はiPhoneの目覚ましよりもすっかりApple watchにお世話になっている。寝る時もずっと左腕の付けたままだ。見ると7時を少し過ぎていた。意外とシャキッとしている。ベッドを抜け出してリビングに行くとテーブルにミニトマトと輪切りにしたゆで卵をのせたサラダとフォーク、スプーンがセットされていた。リビングに入ってすぐに少し変わった香りに気づいた。ほんの一瞬だったのだけれどフワっと香ってきた。「何だろう?」特段気にも留めずにテーブルについた。

良かった。さほど機嫌は悪くなさそうだ。と言うより機嫌がいいみたいだ。帰宅してすぐに満足な会話もなくベッドに沈んだ僕を今日は咎めるつもりはないらしい。二日酔いを続けてのベッドダイブではないことを理解してくれていたようだ。僕がテーブルにつくと同時にキッチンの方へ立って行った。そしてすぐに笑顔で戻ってきた。
「今日はカレーだよ」自信ありげなドヤ顔だ。
「し・か・もぉ〜ジャスミンライス」そう言うとまたキッチンへ戻っていった。すぐにもう一つのお皿によそったカレーを持って帰ってきた。

思い出した。先週のことだ。一緒にテレビを見ている時だった。映し出されたカレーのシーンで僕が言った一言「あぁ〜カレー食べたいなぁ」きっとその事を覚えてくれていたんだ。そう言えばこの前の週末に買い物した時にリンゴも買い込んでいたっけ、さっき帰宅した時に見た後ろ姿で何かチカラ作業をしているように見えた。きっとリンゴをすりおろしていたんだ。
「ありがとう:)」
「僕の事をずっとさりげなく気にかけてくれているんだ。」
ジャスミンライスのリンゴがいっぱい入ったカレーを頬張りながらそう心の中で嫁さんに今日も感謝する。

だ・か・ら・さぁ~結論から先に言ってくれよ

とは、言えないよなぁ

「ただいまぁ」
「おかえりぃ」
何気ないいつもの帰宅時の掛け合いだ。こんな短い言葉で嫁さんの機嫌が見えてくる。そもそも家に帰宅して玄関を開けて最初に発する言葉を何か心の中で構えて発することはないだろう。接待と偽りを装っての深夜近くになってしまった時の帰宅でもない限り、ましてやスーツの後ろ襟あたりに甘い移り香が危ぶまれるとき以外はさほど警戒して帰宅の合図を発することはないはずだ。
「ただいま」
リビングに入って嫁さんの存在をみて小さく言うと「お帰りちゃん」と返ってきた。関西の女性はある一定の年齢に達すると「飴ちゃん」に始まって何にでも「ちゃん」をつけてしまう傾向にあるようだ。それは固有名詞に限らず時として動詞にも付加するようだ。総じて言えるのは「ちゃん」が付くときは機嫌はいい。
キッチンから漂う焼き魚の香りを背に部屋で着替えを済ませてリビングにもどると小ぶりのカマが配膳されていた。
「おおッカマかぁ」
「いつもよりちっさいねん」金額とモノのバランスが悪いと必ず不平をいうのは関西女性の独特の文化なのか?関東では小さくなったことは冷静に判断して説明はするが単価が高いことに敢えてクレーム的には表現はしない。以前よりも高くなったけど仕方ないわという納得の感情だろう。ところが関西では「なんでなん?」「前は〇〇円やったのに」とはっきりしている。
配膳のためにキッチンとリビングを往復しながら嫁の話が始まった。
「今日トモミさんからライン来てなぁ」そう言うとキッチンに戻っていった。
「友達が来んねんて」
『ん?』鼻からなんの話しをしたいのかが見えてこない。仕方なく聞いているという意思表示のための返事をする
「ふぅ~ん」
「あんたも一緒に会ったことある人やで」
「えっそうなんや、誰?」
「コマツさん、覚えてる?」答えを聞く前にまたキッチンへ戻ってしまった。そしてお椀をもって帰ってきて続ける。
「コマツさん今、神戸におるねんて」
「へぇそうなの?」
「そんで自分でやってるお店が忙しくて大変なんやって」
「へぇ~いいなぁ~繁盛してるんだぁ」
「そんでトモミさんが一回行ってみたんやって店に」
「ほぉ」
「めっちゃいい店やって、けっこう値段もしてて、店の雰囲気もいい感じやって、うちらも一回行ってみなアカンわ」
「うん」
「そんでトモミさんからライン来てな」
「うん」
「来週コマツさんが来るねんて」
「あらそうなの」
「それが再来週になるかもって言ってるらしいねん」
「ほんでなトモミさんは来週がアカンねんて」
「うん」
「ほんで再来週に予約している店って変更できるんかな?」
「明日、聞いてみるわ、んでいつなの」
「うん、まだわからへんって言うてる」
「あら、じゃどうする?」
「トモミさんと相談するわな」
「おっけ、決まったら言って」
「このカマおいしいなぁ」
「うん、でもちょっと小ぶりやわぁ」
会員制のお店で僕の名前で予約している店だ。僕しか予約の変更は受け付けてくれないシステムだ。それにしても最初に
「予約って変更できる?」って一言きいてくれると・・・口が裂けててもそんなことは言えない。小ぶりになったカマに不平をいいながらもうれしそうな顔で箸を動かしている嫁に向かってはッ!

やっぱ、旨い

僕も嫁さんもビールが大好き

今でこそ自宅でお平日の夕食時にはアルコールは無しという自身の健康のためのルールには極力従ってはいるのだが、翌日がお休みの夜は独自のアルコール解禁という特別ルールも持っているのだ。お休みとは祝日をさしているわけではなく平日であっても明日は有給をとると決めると飲めるのである。なので原則として平日は飲みませんと宣言している世間の真面目なサラリーマンとは少し違う。要するに少しは自身の健康を気にはしていますよと自分のことを気にしてくれている嫁さんの手前だ。買い物ついでに二人でよく行くスペイン料理のお店がある。ついこの週末にも一緒に出かけた。いつもなら大好きなIPAビールを注文するのだが、その日ばかりはテーブルに着くなりフロアスタッフがメニューを片手持ってきてくれて申し訳なさそうに
「すみません、IPA売り切れちゃってて・・・」
一瞬固まりかけた。それを楽しみに来たのに・・・
「えぇ~」声には出さずに顔を見合わせた。そう私たちは控えめな紳士に淑女なのだ。たいして若くもない。大袈裟に驚いてみせてもスタッフもどうリアクションしたらいいか困ってしまうはずだ。改めてメニューに目を落としながら、
「あっ、PAULANER 置いてるんだ」今まで何度も見ていたメニューなのに全然気づいていなかった。


これ、ドイツのビール、IPAじゃないけど美味しいよ。僕が言うと、嫁さんもうなづいた。
「じゃ、PAULANER をふたつ」
「かしこまりました」丁寧に少し頭をさげてホールスタッフは下がっていった。
「ドイツやベルギーのビールは冷えてなくても美味しいんだよ」
「そういえばそうね」
「日本のビールはキンキンにとまでは言わないけど、やっぱり冷えていることが旨さの前提になっているけど、これらは違う」ちょっと得意そうに僕が講釈をたれているのを嫁さんは前でだまって聞いてくれている。ホールスタッフが失礼しますとビールをふたつ背の高いジョッキにいれて持ってきてくれた。
「かんぱーい」
笑顔になれるビールだ。買い物ついでの日曜日の夕方は、IPAかPAULANERがいいね 🙂

あれは俺だよ。

タオルハンガーの攻防

夕食も終わってリビングでくつろいでいると
「んもぉ~腹立つわぁ」と言いながら嫁さんが入ってきた。
「どうしたん?」聞くと
「洗面台のよこにあるタオルハンガーがまた落ちてんやんかぁ」
「そうなんや」
「吸盤が弱いんかなぁ~最近よく落ちるねん」
「気圧のせいかもな?」
「気圧ッ?そんなことあるぅ?」
「吸盤だからもしかしたら関係あるかなと思って」と話を濁そうとしたのだけれど
「やっぱ100均だからかなぁ」と、かなり悔しそうにしている。
「あれかって来たの去年だったよねぁ」と僕が言うと、一瞬嫁さんが怪訝な顔をして僕をみた。
「あれ買って来たのうちやで」今度は僕が固まった。
「おれやで」
「ちゃがうちがう、うちやって!覚えてるもん」
「俺だって、俺が会社の帰りにラインで頼まれて駅のSeriaで買ってきたやん」
「違うって、うちやって」僕は絶対的な自信があった。あれをかって来たのは僕だ。
今回は内心、嫁さんをからかうのもいいかなと思いつつ引き下がらないことにして続けた。
「違う、ちがう、俺だって。はっきり覚えてるもん」それから暫らく俺だ、うちやってと敵も引き下がらない。最後に
「あのハンガーは横幅をスライドさせて調整できるようになってるねん。そんな気の利いたもんあんたが買うわけないやん」
そう言っておくの寝室へんと消えていった。
『気の利いたもん』を僕が買うはずがないという何の根拠もない理由づけにちょっと可笑しくなったのでした。
そして心のなかで呟いた。あれを買って来たのは俺だよ。って、つい昨夜の出来事でした。